塔成り已りて、世尊過去仏を敬いたてまつるが故に、便ち自ら礼を作したまふ。
 諸の比丘仏に白(モウ)して言(モウ)さく。「世尊、我礼(ライ)を作(ナ)すことを得んや不(イナ)や。」
 仏の言はく、「得ん。」
 即ち偈を説いて言はく、
「人等(ニントウ)百千の金(コガネ)、持し用いて布施を行ぜんよりは、一善心もて恭敬(クギョウ)して仏塔を礼せんには如かず。」
 爾の時に世人、世尊の塔を作りたまふを聞きて、香華(コウゲ)を持ち来たりて世尊に奉る。世尊、過去仏を恭敬したてまつるが故に、即ち香華を受けて持って塔に供養す。
 諸の比丘、仏に白して言さく、「我等 供養することを得んや不や。」
 仏の言はく、「得ん。」即ち偈を説いて言はく、
「百千車の真金(シンゴン)、持し用いて布施を行ぜんよりは、一善心にして、香華もて塔を供養せんには如かず。」
 爾の時に大衆(ダイシュ)雲のごとくに集まる。仏、舎利弗に告げたまはく、「汝諸人の為に説法すべし。」
 仏即ち偈を説いて言(ノヤマ)はく、
「百千の閻浮提、中に満てる真金の施も、一法を施し、随順して修行せしめんには如かず。」
 爾の時に座中に得道の者有り、仏 即ち偈を説いて言はく、
「百千世界の中に、中に満てる真金の施も、一法を施し、随順して真諦(シンタイ)を見んには如かず。」
 爾の時に婆羅門、信を壊(ヤブ)らず。即ち塔の前に於て、仏及び僧に飯(ハン)す。
 時に波斯匿(ハシノク)王、世尊の迦葉仏の塔を造りたまふを聞きて、即ち勅して七百車の塼(セン)を載せ、仏の所(モモト)に来詣(キタ)りて、頭面(ズメン)に足(ミアシ)を礼(ライ)し、仏に白(マウ)して言(マウ)さく、
「世尊、我広く此の塔を作らんと欲(オモ)ふ、為に得んや不(イナ)や。」
 仏の言(ノタマ)はく、「得ん。」
 仏大王に告げたまはく、
「過去世の時、迦葉仏、般泥洹(ハツナイオン)したまひし時、王有り、吉利(キリ)と名づく。七宝の塔を作らんと欲(オモ)ひき。時に臣有りて王に白(マウ)さく、
『未来世に当に非法の人有りて出づべし。当に此の塔を破(ハ)して重罪を得べし。唯願はくは大王、当に塼(セン)を以て作り、金銀(コンゴン)もて上を覆(オオ)ふべし。若し金銀を取る者あらんも、塔は故(モト)のごとくに在りて全きことを得ん。』
 王即ち臣の言の如く、塼を以て作り、金薄(コンパク)もて上を覆ひき。高さ一由延(ユエン)、面の広さ半由延なり。銅もて欄楯(ランジュン)を作り、七年七月七日を経て乃ち成る。作成(ナ)し已りて、香華(コウゲ)もて仏及び比丘僧に供養す。
 波斯匿王仏に白して言(マウ)さく、
「彼の王は、福徳にして多く珍宝有り、我今当に作るべきも、彼の王に及ばざらん。」
 即便(スナハ)ち作(ナ)すこと七月七日を経て乃ち成る。成り已りて、仏及び比丘僧を供養せり。
 

【現代語訳】
 塔が出来上がると、世尊は過去仏を敬って自ら礼拝された。
 比丘たちは仏に申し上げた。「世尊よ、私たちも塔を礼拝してよろしいでしょうか。」
 仏は答えた。「よろしい。」
 そして詩句を説かれた。
「人々が、百枚千枚の金貨で布施するよりも、一たび善き心を起こして、敬って仏塔を礼拝するほうが優れている。」
 その時に世の人々は、世尊が塔をお作りになったと聞いて、香や花を持って来て世尊に捧げた。世尊は、過去仏を敬ってその香や花を受け取り、塔を供養された。
 比丘たちは仏に申し上げた。「我々も塔を供養してよろしいでしょうか。」
 仏は答えた。「よろしい。」
 そして詩句を説かれた。
「百車千車の黄金で布施するよりも、一たび善き心を起こして、香や花で塔を供養するほうが優れている。」
 その時に大衆(仏の教えに従う者たち)が雲のように集まってきた。
 仏は舎利弗に告げた。「お前は人々のために法を説きなさい。」
 仏はそこで詩句を説かれた。
「百の国々、千の国々の中に満ちる黄金の施しよりも、一つの法を施して、その教えに従って修行させるほうが優れている。」
 その時に集まりの中で悟りを得た者があった。そこで仏は詩句を説かれた。
「百の世界、千の世界の中に満ちる黄金の施しよりも、一つの法を施して、その教えに従って真理を見ることのほうが優れている。」
 それを聞いてバラモンは、信をいよいよ固くして、その塔の前で仏と僧に食事を差し上げて供養した。
 その時に、コーサラ国の波斯匿王は、世尊(釈尊)が迦葉仏の塔を作られたと聞いて、直ちに命じて七百台の車にレンガを載せて 、仏(釈尊)の所にやって来た。そして、地に頭を付けてみ足を礼拝し、仏に申し上げた。
「世尊よ、私は広く各地にこの塔を作ろうと思います。よろしいでしょうか。」
 仏は、「よろしい。」と答えた。
 そして仏は大王に教えて言われた。
「過去の世の時代に、迦葉仏が入滅された時、吉利(キリ)という名の王が供養のために七宝の塔を作ろうと思い立った。その時に臣下が王に申しあげた。『未来の世には、きっと法に背く者が出ることでしょう。そして、きっとこの塔を壊して重罪を受けることでしょう。ですから、どうか大王様、塔をレンガで作り、金銀で上を覆ってください。そうすれば、もし金銀を取る者がいても、塔は元の姿を全うすることが出来るでしょう。』
 王は、そこで臣下の言う通りに塔をレンガで作り、金箔でその上を覆ったのである。その高さは一由延で、面の広さは半由延であった。銅で欄干が作られ、七年七ヶ月と七日を経て完成した。王は塔が完成すると、香と花で仏と僧たちを供養したのである。」と。
 それを聞いて、波斯匿王は仏に申し上げた。
「彼の吉利王は、福徳円満で多くの珍しき財宝を所有しておられます。ですから、私が今塔を作っても、彼の王には及ばないことでしょう。」
 そして、直ちに七ヶ月と七日を経て塔は完成した。完成すると王は仏と僧たちを供養した。
 

《長くなりましたが、ここは例によって、この釈尊の行ったことに習って、塔をめぐりそれを供養する人の輪が広がっていく、という物語です。
 終わりの
波斯匿王の話には、塔の作り方についてのおもしろいアイデイアが盛られていますが、趣旨としてはほぼ同様の逸話の繰り返しのように思われますので、訳だけを見て通り過ぎることにします。》

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