増一阿含経に云く、
「忉利天子(トウリテン)有り、五衰の相現じ、当に猪の中に生ぜんとす。愁憂(シュウウ)の声、天帝に聞こゆ。
天帝之を聞きて、喚び来たりて告げて曰く、汝 三宝に帰依すべし。
即時に教えの如くす。便ち猪に生ずることを免れたり。
仏偈を説いて言(ノタマ)はく、
諸有(ショウ)仏に帰依すれば、三悪道に墜ちず、
(ロ)尽きて人天(ニンデン)に処し、便ち当に涅槃に至るべし。
三帰を受け已りなば、長者の家に生じ、
(マ)た出家することを得て、無学を成ぜん。」
おほよそ帰依三宝の功徳、はかりはかるべきにあらず無量無辺なり。
 

【現代語訳】
 また増一阿含経は次のように説いています。
「ある忉利天子の身体に五つの衰弱の相が現れて、猪の中に生まれそうになり、その憂いの声が天帝(帝釈天)に聞こえた。
 天帝はこの声を聞いて天子を呼び、おまえは三宝に帰依しなさいと教えて言った。
 天子はすぐに教えに従い、猪に生まれることを免れることが出来た。
 そこで仏(釈尊)は次の詩句を説かれた。
 人々が仏に帰依すれば、三悪道(地獄 餓鬼 畜生)に落ちることなく、
 煩悩が尽きて人間界や天上界に生まれ、遂には涅槃(煩悩の滅)に達することであろう。三帰戒を受ければ長者の家に生まれ、
 また出家することを得て、更に学ぶべきことのない阿羅漢の悟りを成就することであろう。」と。
 このように、三宝に帰依する功徳は計り知れず、無量無辺なのです。
 

《古い経典でこのような説話が語られるのは理解できます。しかし何度も言うように、こういう話を禅師の時代に僧たちはどのように聞いたのだろうか、という不思議があります。また、禅師はどのように語ろうとしたのでしょうか。
 ここでは、むしろ「天人五衰」という言葉の意味するところに関心が向きます。三島由紀夫著『豊饒の海』第四部がこのタイトルを持つ巻で、意味を知らないままに読んでいました。意味は「六道最高位の天界にいる天人が、長寿の末に迎える死の直前に現れる五つの兆しのこと」(サイト「NAVER」)だそうです。
 あの物語の終わりは私にとって衝撃的で、そのことは先のブログ「源氏物語おもしろ読み」に書いておきました。関心の向きは覗いてみてください。》

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